土田博士
「まり子ちゃんは、今欲しいものはあるかな?」
まり子ちゃん
「え、なんですか、突然? そりゃあ、色々ありますよ。お金とかお金とかお金とかお金とか…」
土田博士
「色々ないね…。じゃあ、お金を手に入れるために、何をすればいいかな?」
まり子ちゃん
「そりゃあ、バイトじゃないですか?」
土田博士
「そうだね。じゃあ、お金が欲しくないのにバイトをするかい?」
まり子ちゃん
「しませんよ。めんどくさいし、そんなんだったら遊びたいです」
土田博士
「その通りだよ。『お金が欲しい』という動機がないと、『バイトをする』という行動は起こさないんだ。人が動くには、
動機が必要なんだ。今回は、そういう話をするよ」
最初は人気がなかった『ドラゴンボール』
土田博士
「まり子ちゃんは、『ドラゴンボール』は知っているよね」
まり子ちゃん
「もちろんですよ。漫画家になりたくて、『ドラゴンボール』を知らない人なんていないんじゃないですか?」
土田博士
「世界的な大ヒットになった『ドラゴンボール』だけど、実は連載当初は人気がなかったって知ってるかい?」
まり子ちゃん
「え!? そうなんですか?」
土田博士
「そうなんだ。最初は『週刊少年ジャンプ』の20ほどの連作作品のうち、アンケートで14位だったこともあって、打ち切りさえ心配されたほどだったんだ」
まり子ちゃん
「驚きです。どうやって人気を出したんですか?」
土田博士
「そこには、担当編集者の鳥嶋氏(マシリト)の助言があったんだ」
悟空に「欲」が出てから大ヒット作に変身
土田博士
「人気が出ないことを心配した鳥嶋氏は、作者の鳥山先生にこう聞いたんだ。
『悟空って、どういうキャラクター?』
鳥山先生はこう答えた。
『強くなりたい、っていうキャラクターです』
そこで、鳥嶋氏は、最初のドラゴンボール探し編を終了させて、ブルマやヤムチャたちを一旦退場させて、亀仙人の下での修行編に入らせたんだ。
そして、天下一武道会を開くことで、悟空の『強くなりたい』っていう気持ちを前面に押し出せるようにしたんだよ」
まり子ちゃん
「それまでの悟空とは違ったんですか?」
土田博士
「『ドラゴンボール』の単行本2巻まで、最初のドラゴンボール探し編は、読んでみるとわかるけど、悟空は能動的に動いていないんだ。
そもそも、悟空はドラゴンボール集めに興味がない。たまたまブルマに会って、ブルマのドラゴンボール探しに成り行きで付き合ってるだけなんだ。
だから、ブルマには『ドラゴンボールを集めたい』っていう欲があるけど、悟空には何の欲もないから、悟空自身には動く動機も何にもないんだよ」
まり子ちゃん
「言われてみると、そうですね」
土田博士
「だから、悟空が自分の意思で行動を起こすように変えたんだ。
『強くないたい』っていう欲があるから、修行もするし、大会にも出るし、一生懸命、強いやつに勝とうとする。そうしたら、一気に大人気漫画になったんだ。
キャラクターには欲がある。その
欲が動機になって、行動を起こして、ドラマを作るんだ」
まり子ちゃん
「じゃあ、主人公は欲深いキャラクターじゃないといけないんですか?」
土田博士
「その方が作りやすいだろうけど、必ずしも一般的な意味での『欲深い』じゃなくてもいいよ。
例えば『一休さん』は、お坊さんだから、当然あまり普通の意味での欲はないよね。でも、『みんなを助けたい』っていう「欲」を持っているんだ。とんちが得意、というのは手段に過ぎず、一休さんの本質部分は、「みんなを助けたい」っていう「欲」なんだ」
まり子ちゃん
「そうやって考えると、どの主人公も『好きな子と付き合いたい』とか『おいしいものを食べたい』とか皆よくまみれですね」
土田博士
「『まみれ』って表現はともかくとして、その通りだね。
以前、
『キャラクターは普通の人を極端に描け』っていう話をしたけど、『食べたい』でも『モテたい』でも『強くなりたい』でも『皆を救いたい』でも、そういう『欲』を極端なまでに強く持っているキャラクターこそが、主人公にふさわしいんだ」
まり子ちゃん
「じゃあ、私は『お金が欲しい』という『欲』が極端に強いキャラクターを主人公にしたいと思います!」
土田博士
「が、がんばってね…」